Vytautas Bacevičius. Selected Piano Works (liner notes in Japanese and English)

Vytautas Bacevičius. Selected Piano Works (liner notes in Japanese and English)

Composer: Vytautas Bacevičius

Type: Vinyl record

€30,00
Information

LP

 

Year of Publication: 2023

Publisher: Music Information Centre Lithuania

Product ID: MICL LP007

Description

 

ヴィータウタス・バツェヴィチュス(1905〜1970)はリトアニアの作曲家であり、ピアニストです。彼はリトアニア音楽史における偉才であり、戦間期の前衛作曲家の一人として近代リトアニアの音楽の創造を呼びかけ推進しました。バツェヴィチュスは、ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニスに次いで、多くの価値あるピアノ作品や交響作品を残したおそらく唯一の作曲家です。また、彼自身も素晴らしいピアニストとして知られていました。(シャルーナス・ナカス)

20世紀のピアノ音楽は、非常に多様だ。夥しい数の名作が生み出されたそのパノラマを豊かにしているのは、20世紀を代表する巨匠作曲家だけではなく、時代や歴史的背景によって埋もれてしまい、その芸術的価値がなかなか認められない作曲家の存在も大きい。彼らの作品に取り組むことは、ピアニストとしての使命であり、同時に楽しい発掘作業でもある。そのためか普段から、まだレパートリーとして定着していない、少しニッチな作品を取り上げることが多い。

バツェヴィチュスの作品と出会ったのは偶然だった。20世紀初頭の神秘主義的な傾向に加え、リトアニアの戦間期やソ連占領時代のどちらにも当てはまらない独自の創作スタイルは目を引いた。ヴィリニュスで勉強する中で、バツェヴィチュスの紆余曲折の多い人生(例えば移住など)や、少し変わった個性についても知ることができた。彼の音楽観は、私にとってどこか親近感を感じさせるものだった。例えば手紙の中で、彼に影響を与えた作曲家としてオリヴィエ・メシアン、アンドレ・ジョリヴェ、エドガー・ヴァレーズを挙げているが、私のデビューアルバムはジョリヴェとヴァレーズの作品集だった。また、私のリサイタルプログラムでは、大抵ニッチな近代・現代音楽が半分以上を占めているが、一方バツェヴィチュスも同じようなプログラムを組んでいたようだ。

今回のアルバムには、初期の作品から晩年の「宇宙音楽」と呼ばれる時期の作品までを網羅し、バツェヴィチュスのさまざまな創作時期の作品を収録した。バツェヴィチュス自身が初演者として自作を演奏することが多かったものの、すべての作品が公の場で演奏されたわけではない。そのため、このアルバムでは、未だに演奏されたことのない作品も含め、彼の多様な作風とその変化を俯瞰できるようなプログラムを用意した。結果として、演奏頻度の高い作品(例えばピアノのための「ポエム」など)は残念ながらプログラムから外すことになった。アルバムに収録された一部の作品はバツェヴィチュス自身も録音を残しており、彼のオリジナリティ溢れる演奏スタイルには感化されたものの、私自身はリトアニア人ではなく、リトアニアで演奏を学んだわけでもないので、このアルバムでは新しい視点からバツェヴィチュスの作品を解釈するように努めた。

最後に、この録音プロジェクトに親身に協力してくださったリトアニア音楽情報センターのスタッフの方々をはじめ、アルバム制作に関わったすべての皆さんに感謝の意を表したい。(石井佑輔)

バツェヴィチュスはピアノのためのプレリュードは全部で6曲残しているが、後のアメリカ時代に書かれた後のプレリュード第2〜6番と違い、プレリュード第1番 op. 3は、1926年、カウナスにて書かれている。最初期の作品であるにもかかわらず、作曲家自身はこの第1番を6曲のプレリュードの中で最良の作品であるとしている(1966年10月の妹たち宛の手紙にて)。まだ若く才気に溢れたこの作品には、後期ロマン派の影響が濃厚だが、同時に後のバツェヴィチュスの独特な語法の萌芽も既に見られる。

パリから帰国した後カウナスで過ごした1933年から1938年はバツェヴィチュスにとって実りの多い時期であった。作品の中で抽象的な表現が結晶化し、作品のタイトルもある種の表象性を帯びるようになったこの時期に書かれたのが、1934年の2つのグロテスク op. 20及び1937年の瞑想 op. 29である。前者はドイツ表現主義的なスタイルを特徴としているのに対し、後者はフランス20世紀音楽の語法と彼自身のスタイルが融合し、独特な和声のアマルガムが形成されている。

コンポーザー=ピアニストが自身のレパートリーのためにヴィルトゥオーゾ作品を書くことは珍しくないが、バツェヴィチュスも例外ではなかった。自身でアメリカでの創作時期を「妥協した作風」と見なしていたにもかかわらず、1948年に書かれたトッカータ op. 46は特に気に入っていたようで、「無調で非常に良い、力強い作品」と自己評価している(1961年2月9日の妹グラジナへの手紙にて)。パリでバツェヴィチュスを魅了したプロコフィエフを連想させるモーター的な動きが見られる。一方、1954年に書かれた悲しき歌 op. 56では、即興的なパッセージやブルーノートを思わせる旋律線等、ジャズの影響が明らかだ。バツェヴィチュスがジャズについての意見をしたことはないが、彼が何十年と培ってきた自発性のあるピアニズムや和声語法と、1960年代の進歩したフリージャズの語法がかなり近くなっていたことに、作曲家本人は気がついていなかったのだろうか。

バツェヴィチュス自身によれば、1965年から1966年までは「初期の独自の作風への回帰」への時期。アメリカ時代は作品の献呈を避ける傾向にあったバツェヴィチュスであったが、1956年に書かれた組曲第3番 op. 60は例外的に兄のケストゥティスに捧げている。アメリカ時代の特徴的なロマンティックな表現は避けられ、より透明感のある響きと洗練された簡素な書法により抑制の効いたスタイルへの転機になった作品。第3楽章のメランコリー表現にはこの作曲家の感傷的な側面も垣間見られる。

バツェヴィチュスは、1950年代後半から60年代にかけて、やや秘境的ともいえる「宇宙音楽」の概念を提唱し始めた。1963年に書かれた第6の言葉 op. 72 では、ピアノの楽器の特性をうまく利用した点描的な書法と、小節線を廃した流動的な時間構成がしなやかで自発的な流れを生み出す。その空間的な表現の中に作曲家独自のコスモロジーが聴かれる。

石井佑輔(いしいゆうすけ)

国立音楽大学作曲学科卒業後、渡欧。フランス、パリ国立高等音楽院(CNSMDP)およびブーローニュ音楽院ピアノ科最高課程、ドイツ、フランクフルト音楽表現芸術大学大学院アンサンブル・モデルン国際アカデミー(IEMA)修了。

第14回ハビエル・モンサルヴァーチェ国際ピアノ現代音楽コンクール(ジローナ)2位、第8回オルレアン国際21世紀ピアノコンクールにおいてN.ブーランジェ賞、第9回同コンクールにてA.ジョリヴェ賞を受賞。2014年イヴァル・ミカショフ・トラスト第6回ピアニスト/作曲家委嘱プロジェクト優勝。現代音楽を中心に日本、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、オーストリア、リトアニア、モロッコ、アメリカにて演奏活動を行う。2012年「ジョリヴェ/ヴァレーズピアノ作品集」、2013年「ジョリヴェ/ルノピアノ作品集」をリリース、レコード芸術誌他にて高評を得る。2023年、リトアニア音楽情報センター(MIC)から「ヴィータウタス・バツェヴィチウスピアノ作品集」をリリース。2013-2020年国立音楽大学、2014-2018年東京藝術大学非常勤講師、2019年よりリトアニア、カウナス工科大学博士課程にて20世紀のリトアニア人作曲家作品を研究、並行して演奏、講演活動も行なっている。

 

Contents:

Side A

1 Sixième mot op. 72
2 Chanson triste op. 56
3 Suite No. 3
4 Prelude No. 1

Side B

5 Toccata op. 46
6 Meditation op. 29
7 Two Grotesques op. 20

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